2012年5月18日 (金)

CS『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』

CS『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』
CS『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』
CS『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』
『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』(118分 2008年)


「チャンネルNECO」にて鑑賞。

今さらだが、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』は大傑作である。これに異を唱える人はまずいないだろう。

時は戦国、群雄割拠の時代‥隣国である山名の国に攻め込まれた秋月の国の侍大将・真壁六郎太(三船敏郎)は唯一生き残った領主の血筋である雪姫(上原美佐)を擁し、軍資金の黄金と共に山中の隠し砦に潜んでいた。
そこを通りかかった戦帰りの二人の百姓(千秋実、藤原釜足)に黄金の一部を発見された六郎太は、ふたりに黄金を運ばせ、友国の早川まで敵中突破を試みる。

次々と降りかかる危機を知力と機転でかいくぐっていくスリル、アクションのダイナミズム、名セリフ「裏切り御免!」に代表されるユーモア、上原美佐の気品あふれるクールな美しさ‥
ジョージ・ルーカス監督が『スター・ウォーズ』でこの作品の引用をしたことは有名な話だが、よりによってそんな作品をリメイクしよう‥という勇気は賞賛に値する。いや、皮肉じゃなくて‥

旧作・名作のリメイクは国内外を問わず盛んに行われているが、その手法はオリジナル版を忠実になぞるのか、それとも大胆な変更を加えるのか、この2つの選択しかない。本作と同時期に公開された故・森田芳光監督の『椿三十郎』は前者の手法を採用し、オリジナル版と同じ脚本を使用したが、残念ながら失敗作に終わった。
その理由はいろいろと考えられるが、まったく同じ素材を使用したとなれば、オリジナルの方に軍配が上がるのはやむを得ないことだ。後出しで勝てるのはジャンケンくらいしかない。

その点を考慮したのか、脚本を中島かずき、監督を樋口真嗣が担当した本作『隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS』は後者の手法を採用し、オリジナル版とはまた違うテイストの作品とした。
前半こそオリジナル版の展開をなぞっているものの、後半はまったく違う作品と言っていい。

一番大きな改変は、オリジナル版の主人公・真壁六郎太(阿部寛)を脇に回し、ふたりの百姓のひとり武蔵(松本潤‥ちなみにもうひとりは宮川大輔)を主人公に据えたことだろう。そして、この武蔵と雪姫(長澤まさみ)が身分違いの恋におちるという、予想通りの展開となる。
ハリウッドのヒット・メーカーがリスペクトしたほどの作品をアイドルとお笑い芸人に託すあたりの度胸は本当に賞賛に値する‥(やや皮肉が混じってきた ^_^;)

ただ、私はアイドル映画だからと言って別に色眼鏡で見るつもりはない。アイドルが出演していようが、お笑い芸人が出演していようが、きちんと映画として成立していればそれでいい。
しかし、本作においてはその肝心のロマンスの描き方が不満。一国の姫君と一介の根無し草のような男との身分違いの恋‥そのはかなさ・切なさが表現できていない。
それはラスト・シーンに顕著。「裏切り御免!」なんて言っていいのは本当は雪姫の方じゃないのかなぁ‥
とはいえ、あちこちで叩かれているほどツラい作品とは別に思わない。
樋口監督はこの作品で得たノウハウを次回作『のぼうの城』(共同監督:犬童一心)でぜひ生かしてほしい。

椎名桔平が演じる山名の国の侍大将が身に付けている甲冑がダース・ベーダーに酷似しているのは『スター・ウォーズ』への趣旨返しかな(笑)

余談だが、山名の民が歌い踊る火祭りの場面で、『海底軍艦』に登場するムウ帝国人が守護竜マンダを讃える歌の「スセムソラ‥マンダ!」というフレーズをちゃっかりといただいているのは、樋口監督らしいお遊びと言うところか。


出演:松本潤、長澤まさみ、阿部寛、椎名桔平、宮川大輔、高島政宏、上川隆也、國村隼、甲本雅裕、KREVA、生瀬勝久、古田新太、黒瀬真奈美、ピエール瀧 他

脚本:中島かずき
監督:樋口真嗣

2012年5月16日 (水)

BS『キングコングの逆襲』

BS『キングコングの逆襲』
BS『キングコングの逆襲』
BS『キングコングの逆襲』
『キングコングの逆襲』(104分 シネスコ 1967年)


「日本映画専門チャンネル」にて鑑賞。

東宝創立35周年記念作品として日米合作で製作された。同時上映は『長編映画 ウルトラマン』(※)
怪獣映画が大好きなガキんちょにとってはうれしいカップリングと言える。
かく言う私も、母親に作ってもらった弁当持参で1日中映画館に籠もっていたクチだ。入れ替え制なんてものはなかった頃だし、田舎の映画館なのでそのあたりは大らかなもの。館主のオヤジもいやな顔ひとつしなかった。
考えてみれば、当時から小学生のくせに平気でひとりで映画館に通っていた訳で、現在とまったく変わっていない‥(笑)

国連派遣の原子力潜水艦エクスプロアー号が海底油田の調査のためモンド島近海を航行中、海底地震の影響で発生した岩崩れによりあえなく故障。修理の間、調査団の責任者ネルソン司令は部下の野村三佐、看護師のスーザンと共にピクニック気分で島に上陸。しかしモンド島は巨大類人猿(キングコング)、原始恐竜(ゴロザウルス)、巨大海ヘビ(海ヘビ)が生息する魔境だった。
金髪美女スーザンを巡り、キングコングとゴロザウルスは激しいバトルを繰り広げるが、怪力でゴロザウルスのアゴを引き裂いたキングコングが勝利を納める。
すっかりスーザンになついたキングコングを島に残し、修理を終えたエクスプロアー号はモンド島を後にした。
NYに帰還したネルソン司令一行はキングコング発見の記者会見をどや顔で行い、ニュースは世界中を駆け巡る‥
その頃、核兵器を持つことが念願の某国工作員マダム・ピラニアは純粋培養のマッド・サイエンティスト、ドクター・フーと結託、放射性物質エレメントXが大量に眠る北極で採掘作戦を展開していた。
エレメントX採掘用にドクター・フーが開発したロボット怪獣メカニコングが起動、採掘は順調に進むかと思われたが、採掘現場に帯びる強力な磁場がメカニコングの機能を狂わせ、計画は頓挫する。
某国の援助が打ち切られることを恐れたドクター・フーは、マダム・ピラニアにキングコングを捕らえてエレメントXを採掘させることを提案、実行に移す。ついでにネルソン、野村、スーザンの3人も拉致‥
しかし明らかに無理がある計画はまたまた失敗、キングコングは北極のドクター・フーの基地から脱走、東京に上陸した。すっかりドクター・フーにあいそをつかしたマダム・ピラニアはネルソンら3人を解放するもドクター・フーに射殺される‥美人薄命。
崖っぷちのドクター・フーはキングコングを連れ戻すために、メカニコングを東京に送り込む。
かくて、東京タワー上でキングコングとメカニコングの最後の闘いが始まろうとしていた。

上映時間104分という怪獣映画としては長めの尺の本作は、怪獣映画とスパイ映画をミックスしたような展開で、ドクター・フーを怪演した天本英世、マダム・ピラニア役の浜美枝と、怪獣映画には珍しく人間側のキャラクターが立ちまくっている作品だ。
天本英世はこの後、『仮面ライダー』の死神博士などでお茶の間の人気ものとなるし、浜美枝は本作のすぐ後『007は二度死ぬ』のボンド・ガールに起用されたのは有名な話。

正直、本作に登場する怪獣は全長も20M前後と比較的小さめで地味‥当然ゴジラみたく、ビル街を破壊してまわるようなパワーは感じられない。しかしその分スピードとリアリティを重視した演出が施され、どちらかと言えばややアダルト向けの作品と言える。
それを証明するかのように、ある時はボーイッシュに、またある時はドレッシーにとさまざまなモードに身を包んで登場するマダム・ピラニアはまさに悪の華とでも形容したいほど魅力的なキャラクターに描かれていた。

また、特撮面においても着ぐるみの限界に挑んだようなゴロザウルスのリアルな造形や、通常の怪獣映画の倍のスケールで製作されたミニチュアのディテールが素晴らしい。特に最後の決戦の場となる東京タワーは鉄骨溶接で巨大なものが製作され、その迫力は特筆だ。
また本作の撮影では、怪獣映画初となるラジコンで自走する61式戦車のミニチュアが使用されて効果を挙げている。

何しろ本作は40年近く前の作品だけに、今観るとさすがに時代がかって見えるのは否めない。怪獣映画に限らずとも、この頃(1960年代)の日本映画は、東京オリンピックを境に一気に普及したTVに負けじと、企画自体に苦心の後が見受けられるものが多い。本作の同時上映『ウルトラマン』もそんな苦心の企画のひとつだろう。しかしそれすらも最後のあがきと言わんばかりに、1970年代の日本映画界はどん底の時代を迎えるのだが、そんな時代をリアルタイムで経験した日本映画ファンとしては、60〜70年代の作品には奇妙なノスタルジーを感じてならないのである。

(※)TVシリーズ『ウルトラマン』から「ウルトラ作戦第1号」「怪獣無法地帯」「怪獣殿下(前・後編)」の4エピソードを編集、天地をトリミングしシネスコ版として公開した。


出演:ローズ・リーズン、宝田明、リンダ・ミラー、天本英世、浜美枝、田島義文、黒部進、アンドリュー・ヒューズ、沢村いき雄、田口計(声)、山東昭子(声) 他

脚本:馬淵薫
特技監督:円谷英二
監督:本多猪四郎

2012年5月15日 (火)

『キラー・エリート』

『キラー・エリート』
『キラー・エリート』
『キラー・エリート』
『キラー・エリート』…KILLER ELITE(117分 シネスコ ☆☆☆★★3.50/5)


バイオレンス・アクションの巨匠サム・ペキンパーの作品と同タイトルだが、それとはまったく無関係‥
ペキンパーの『キラー・エリート』は現代を舞台としていながら、忍者装束に身を固めたニンジャ部隊が登場する、いささかコミックな展開の活劇であった。

比べて本作は元SAS(英国特殊部隊)の原作者が著したノンフィクションの映画化。
要するに「実話ですよ‥」という触れ込みだが、英国政府は当然本作で描かれた内容を否定しているので、実際のところどこまでが事実なのかは判然としない。

1980年‥凄腕の殺し屋ダニー(ジェイソン・ステイサム)は、殺伐とした殺しの稼業に嫌気がさし足を洗うが、かつての相棒であり師匠でもあったハンター(ロバート・デ・ニーロ)の命と引き換えに現場に復帰することを強要される。
その依頼とはオマーン国の有力者の息子を殺害したSAS隊員への報復‥彼ら3人を事故に見せかけて殺すことだった。
かつての仲間を集めて仕事に取りかかるダニーだが、彼の前にSASのOBが結成した保安組織「フェザー・メン」の捜査官スパイク(クライヴ・オーウェン)が立ちはだかる。

隅から隅まで男の映画である。謀略や裏切りが渦巻く非常の世界で、ジェイソン・ステイサムは鍛え上げた肉体を誇示して肉弾アクションに挑み、ロバート・デ・ニーロはいぶし銀の魅力を見せつける。そしてクライヴ・オーウェンもしたたかに職務に邁進する。
特にジェイソンVSクライヴのタイマン格闘場面はなかなかの迫力である。
もっとも、男のみの汗くさい映像ばかりでは申し訳ないと思ったのか、きちんと綺麗どころを用意しているあたりはソツがない。

大スターの競演から『エクスペンダブルズ』や『特攻野郎Aチーム』みたいなアクション大作と思いがちだが、実際は膨大な石油利権が絡んだ英国のオマーンへの軍事介入の内幕を描いたシリアスな内容だった。フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」や「オデッサ・ファイル」の延長線上にある作品と言ってもいいだろう。
登場人物や組織などの相関も複雑で分かりにくく、善と悪に二極化されたスカっとする内容ではないので注意されたし。


出演:ジェイソン・ステイサム、クライヴ・オーウェン、ロバート・デ・ニーロ、ドミニク・パーセル、エイデン・ヤング、イヴォンヌ・ストラホフスキー、ベン・メンデルソーン 他

原作:ラヌルフ・ファインズ
脚本:マット・シェリング
監督:ゲイリー・マッケンドリー
2012/5/12公開

2012年5月14日 (月)

『貞子3D』

『貞子3D』
『貞子3D』
『貞子3D』
『貞子3D』(96分 3D ☆☆☆★★3.50/5)


すっかりJ・ホラーの代表作となってしまった中田秀夫監督の『リング』が公開されたのが1998年‥もう14年前の作品ということになる。
今や語り草ともなっている、貞子がテレビから這いずり出てくる有名なラストでは、映画館のイスから転げ落ちそうになるくらい驚いたのがつい昨日のようだ‥
ちなみにその場面は原作にはなく、映画のオリジナル。ホラー映画のアイコンともなっている貞子というキャラクターは、この映画版『リング』あってこそと言うべきだろう。

さて、本作『貞子3D』は『リング』の原作者・鈴木光司の『エス』の映画化であるが、残念ながらこちらは未読なので、あくまでも映画『貞子3D』の感想として以下を書き進めていこうと思う。
小説『リング』は既読であるが、映画版『リング』とは「見たら7日目に死ぬ呪いのビデオ」くらいしか共通点のない、まったく違う内容と言って良く、その意味では本作も同じパターンではないだろうかと予想しているが‥

本作は『リング』『リング2』『リング0/バースディ』と続くリング・シリーズの最新作だが、その恐怖の質は過去3作とはまったく趣向を異にしたものと考えて良い。
登場するアイテム「見たら7日目に死ぬ呪いのビデオ」も「ネット上にばらまかれた呪いの動画」に差し替えられ、時の流れを感じる。
この「呪いの動画」は即効性‥これを見た者はすぐ自殺してしまうので、本作には『リング』のように、時間をかけてじわりじわりと迫ってくるような心理的な恐さは感じられない。
その分、けれんに満ちたショッカー描写は満載で、いささかベタながらもホラー初演出の英勉監督の意気込みは強く感じられる。

その内容をズバリ言ってしまえば「貞子」の「富江」化というところ‥これは映画を観ていただいた方はお分かりだろう。
過去3作で描かれてきた悲しい生い立ちや、その悲惨な最期など、決して望まぬ存在になってしまった貞子の悲哀を描くのはきっぱりと投げ捨て、本作に描かれる貞子は最初から最後まで恐るべきモンスターである。
『リング』が好きか、あるいは『富江』が好きなのか‥この点が本作を評価する上で大きなポイントになると思われる。

ネット映像の投稿者であり、自殺した柏田がなぜ貞子の復活にあそこまでこだわっていたのか。またヒロイン茜の超能力者ゆえの苦悩や葛藤。これらいくらでも物語を面白く出来そうな要素への踏み込みがやや甘いので、やや消化不良な感は認めざるを得ないが、ホラー映画として守るべき基準はクリアしているし、クライマックスの茜と貞子が対峙する場面の幽玄な美しさなど、印象的な場面も多く個人的には嫌いではない。

ところで本作公開直前に、貞子役で橋本愛が出演していることが発表されたが、最近この手のジャンルの作品に出演する傾向が顕著な彼女だけに、平成のホラー・クイーンの異名をとる日も近いのではないだろうか。


出演:石原さとみ、瀬戸康史、山本裕典、田山涼成、高橋務、染谷将太、高良光莉、橋本愛 他

原作:鈴木光司『エス』
脚本:藤岡美暢、英勉
監督:英勉『ハンサム☆スーツ』『高校デビュー』
2012/5/12公開

2012年5月13日 (日)

BS『ハンサム☆スーツ』

BS『ハンサム☆スーツ』
BS『ハンサム☆スーツ』
BS『ハンサム☆スーツ』
『ハンサム☆スーツ』(115分 ☆☆☆★★3.50/5)


BS放送にて鑑賞。

『ラブ★コン』『ハンサム☆スーツ』『高校デビュー』‥
この3作はアスミック・エースの恋愛コミック路線3部作と名付けたいくらい作品のイメージが良く似ている。
3作の中では本作のみコミック原作ではないが、その内容は3作の中で一番コミック的だ。
『ラブ★コン』と『ハンサム☆スーツ』が鈴木おさむ脚本、『ハンサム☆スーツ』と『高校デビュー』は英勉監督と、メインのスタッフが共通している点からも、この3作の作風の類似は納得できる。

本作はブサイクがゆえにまったく女子にモテない大木琢郎(塚地武雅)が、洋服の青山(笑)が極秘に開発した「ハンサム・スーツ」を着て稀代のモテ男子・光山杏仁(谷原章介)に変身しちゃうというファンタジーであり、『ジキル博士とハイド氏』の一バリエーションと言ったところか。

本作には、ルックスが良すぎるために誰も自分の内面を見てくれない‥てなことを真剣に悩む星野寛子(北川景子チャン)なるヒロインが登場する。
彼女はこのジレンマを克服するために、禁断の「ブスーツ」なるものを着用して、密かに思いを寄せる琢郎の元を訪れるのだが、この北川景子チャン(スーツ着用前)と大島美幸(着用後)が実は同一人物であったというオチはけっこうバレバレであった。

この作品のテーマは「人間の価値って、決して外見で判断されるべきではないよね‥」という至って普遍的なものである。
確かに人間の内面なんて、その外面からは判断できようはずもないのだが、そんな傾向がまかり通っているのも現実だろう。
しかし、本作を観る限り「男は内面だが、女はやっぱり外見かも‥」と多少弱気なメッセージに感じる点は否めなく、この現実を覆すほどのパワーが感じられない点が惜しい。

このテーマをより強く推し進めるためには、「ブスーツ」着用前と着用後の配役を逆にすべきであるのだが、そうすると物語としてはイタ過ぎて、夢も希望も無くなってしまう可能性もあるのでオススめはしかねるが‥

しかし、何のかんの言ってもこの作品‥けっこう好きである。

北川景子と温水洋一が親子なのはDNA的にムリがありすぎかと‥(苦笑)
ちなみに本作は佐々木希の映画デビュー作でもある。


出演:谷原章介、塚地武雅、北川景子、佐田真由美、大島美幸、池内博之、本上まなみ、佐々木希、山本裕典、ブラザートム、中条きよし、温水洋一、伊武雅刀 他

原作・脚本:鈴木おさむ
監督:英勉
2008/11/1公開

2012年5月10日 (木)

『ももへの手紙』

『ももへの手紙』
『ももへの手紙』
『ももへの手紙』
『ももへの手紙』(120分 ☆☆☆★★3.50/5)


「ももへ‥」と書かれた手紙を残して父親は天国に旅立った。
「本当はなんて書きたかったの?」
心無い言葉をぶつけたまま父親を亡くしてしまったももは、心にわだかまりを残したまま母親と共に瀬戸内海の小島に移り住む。
母親は留守がち、地元の子共たちとも打ち解けず孤独な日々を送るもも‥
そんなももの前にイワ、カワ、マメと名乗る3匹の妖怪が姿を現す。

瀬戸内海の小島を舞台に、心に傷を抱えた少女ももの再生と成長を描いたハートフル・アニメ。
徹底したリアリズムで再現された美しい自然やレトロな街並み、ていねいに描画されたキャラクターなどで、フルCGのデジタル・アニメでは味わえない素朴な日本の原風景がリリカルに表現されており、大人の鑑賞にも十分に耐えうる内容である。
メールがすっかり主流となったご時世に、手紙というアナログの極みとも言える通信手段が物語のカギとなる点もポイント。

ジャンルとしては日常系ファンタジーとでも名付けたい作品で、このジャンルの代表作としては『となりのトトロ』が有名だが、本作にもその影響は大いに見受けられる。
イワたち妖怪3人組のサイズが大中小と揃っているのからしてトトロの既視感がありありだ。

ももだけ(正確にはもう一人いる‥)が見ることができる妖怪たちは実は仮の姿で、ある高尚な使命を持っているのだが、そんなことはさておいての悪戯のし放題。
最初はそんな彼らを恐れていたももが次第に彼らと打ち解けていく過程が丹念に描かれている。
イワとマメ、それとももが「そら」に手紙を送るため、怪しい踊りをする場面など楽しい見せ場となっていた。

しかし、日常的リアリズムにこだわりすぎたのか、アニメーションの魅力のひとつである映像の躍動感に欠けているのが残念。
沖浦監督の演出は繊細だがやや平板‥ももたちがイノシシに追われる場面や、クライマックスの台風の最中にイワとももがバイクを走らせる場面など、非現実的なアクションをさせろとまでは言わないが、もう少し盛り上げようがなかったものか。

緻密なリアリズムを積み上げていく演出スタイルなので、あまりにも突飛なアクションは避けたかったのかも知れないが、実写では表現できないアニメの持ち味を放棄する手はないだろうと思う。

キャスティングの面で書いておきたいのは、ももの母親を演じた優香だろうか。彼女みたいな有名タレントを声優に起用した場合は、そのご本人の顔がちらついて映画に集中できず困ったりすることが多いが、今回は全くそれがなかった。それだけキャラクターに同化していたということだろう。
優香がお母さん役‥グラビアなど若い頃の活躍を知っているだけに、やや複雑な気持ちになるのは否めないけれど‥


声の出演:美山加恋、優香、西田敏行、山寺宏一、チョー、坂口芳貞、谷育子、小川剛生、荒川大三郎、藤井皓太、橋本佳月 他

脚本:沖浦啓之
監督:沖浦啓之『人狼 JIN-ROH』
2012/4/21公開

2012年5月 6日 (日)

『宇宙兄弟』

『宇宙兄弟』
『宇宙兄弟』
『宇宙兄弟』
『宇宙兄弟』(129分 ☆☆☆☆4.00/5)


宇宙飛行士になる夢を実現させた弟・ヒビト。その夢をあきらめてしまった兄・ムッタ‥
そんな兄弟が夢の実現に向かって再び歩み出す。子どもの頃に交わした約束を果たすために‥

小山宙哉原作の人気コミックの映画化‥
ただし、何だマンガか‥と侮ることなかれ。NASAやJAXAの全面協力の元、かなり本格的なSF青春ストーリーに仕上がっている。
宇宙ものには欠かせない宇宙船の発射シーンも迫力があるし、月面シーンのVFXも上々。何よりも友情出演として、宇宙開発史に大きな足跡を残したあの方ご本人を担ぎ出してくるくらいの気合いの入れ方なのだ。
さすがご本人だけに語る言葉のひとつひとつに説得力があるねぇ。
さて、あの方がどなたかはエンド・クレジットでご確認を‥(笑)

考えてみれば、東映と松竹が「はやぶさ」をテーマとした類似作品を競作していた頃、東宝だけがこの題材に興味を示さなかったのは、同様のテーマを扱っている本作の仕上がりによほど自信があったからではないだろうか。
よせばいいのに同時期に公開して見事に観客を奪い合う結果となった「はやぶさ」2作と比べれば、本作の方が間違いなく興収は上回るだろう。このささやかな先見の明を持ち合わせているからこそ、日本映画界のリーディング・カンパニーとして東宝が君臨し続けているのだと思う。

本作の内容について強く感じるのは物語のまとまりの良さ。
原作コミックは未読だけに推測に留まるが、かなり長い原作を120分強の上映時間に納めるには、脚色の段階でエピソードの抜粋を慎重に行う必要がある。本作はそのつまみ方が巧みなせいか、この手の原作ものに有りがちなダイジェスト感があまりない。
特に広大な月面でヒビトが遭遇するアクシデントと、38万キロ隔てた地球でそれを知った第2次宇宙飛行士選抜試験に臨むムッタの心情を交錯させたクライマックスはなかなかの盛り上がりを見せる。

これは原作ファンのみならず、私のような一見さんも同じように映画を楽しめるということであり、これがポイントの獲得に大きく貢献した。
原作ファンだけに特化せず、幅広い観客層にアピールしうる内容に本作を仕上げた製作スタッフの英断は高く評価したい。

余談だが、ムッタたち6人が参加する第2次宇宙飛行士選抜試験のシークエンスで、あの萩尾望都の名作SFコミック「11人いる!」を思い出すのは私だけだろうか(笑)
宇宙という未踏の世界で発生する不測の事態に対処する能力は、宇宙飛行士には欠かせないスキルであり、訓練というささやかな場とは言え、それにうまく対応できたムッタは夢に向かって大きな1歩を踏み出すことが出来た。
この第2次宇宙飛行士選抜試験の場面はJAXAの協力もあってか、非常にリアリティがあり面白いエピソードだったと思う。

残念な点はただ一つ、本作がシネスコではなかったこと。こういう作品こそ、シネスコの迫力ある画面で観たいのだけれど‥


出演:小栗旬、岡田将生、麻生久美子、濱田岳、井上芳雄、新井浩文、塩見三省、森下愛子、益岡徹、堀内敬子、西村雅彦、吹越満、堤真一 他

原作:小山宙哉
脚本:大森美香『デトロイト・メタル・シティ』
監督:森義隆『ひゃくはち』
2012/5/5公開

2012年5月 1日 (火)

『テルマエ・ロマエ』

『テルマエ・ロマエ』
『テルマエ・ロマエ』
『テルマエ・ロマエ』
『テルマエ・ロマエ』(108分 シネスコ ☆☆☆★★★3.75/5)


入浴文化を知ることは、それぞれのお国柄を学ぶ一つの指標となり得てなかなか面白い‥
古代ローマ帝国において大衆娯楽の代表的な存在であったテルマエ(大衆浴場)と、日本の銭湯を代表とする公衆浴場との共通点に着目したヤマザキマリ氏の原作コミックは、そんな知的好奇心を刺激してくれる良質なエンタテイメントであり、谷口ジロー氏の「孤独のグルメ」や「散歩もの」に並ぶカルチャー・コミックの好編だと思う。

その「テルマエ・ロマエ」を実写映画化するというニュースを耳にした時は、「果たして大丈夫か?」という一抹の不安が胸をよぎったものだが、こうして完成した作品を観た今となっては、それが杞憂で終わったことを素直に喜びたい。

主人公ルシウスを始めとする、ローマ人キャストをどのように表現するかが、本作の企画段階での障壁であったことは想像に難くないが、結果として見れば(顔の濃ゆい ^_^;)日本人キャストを起用するという今回の選択は正しかった。

映画版『テルマエ・ロマエ』は一種のカルチャー・ギャップ・コメディであると同時に、主人公ルシウス及び映画オリジナル・ヒロインであるヤマギワマミ(マンガ家志望)の人間的成長を物語の軸に据えて脚色されており、このプラスαの部分の展開を考えると、やはり外国人キャストでは厳しいだろう。
日本人が外国人を演じることに違和感を感じないのか?という問いかけには否と答える。昔の日本映画などそれが当然であったことだし‥

物語としてはこれにローマ帝国の歴史が覆りかねない壮大なタイム・パラドックスが絡むのだが、これはオマケ程度の扱い‥しかし本作のテーマは何と言っても風呂‥(笑)広げた風呂敷はこのくらいの大きさでいいだろう。あまり大きすぎると畳むのも大変だ。

その代わり、ローマにある世界最大級の規模を誇るチネチッタ撮影所にキャスト・スタッフが赴き、『ROME(ローマ)』というTVドラマ用に作られたローマ市街の巨大オープンセットを拝借して撮影された映像は迫力十分‥たかだかコメディ映画なのに、この気合いの入れ具合が嬉しいところである。

また本作はコメディ映画のくせに歴史考証はなかなか正確。ハドリアヌス帝は「パックス・ロマーナ(ローマの平和)」を謳歌した五賢帝時代の三番目の皇帝にあたり、即位の際の元老院議員の暗殺、長期に渡る属州の視察、外征から内政への政策の転換、美少年の愛人等‥の史実が上手く物語に反映されていた。その後ローマ帝国はアントニヌス帝、マルクス・アウレリウス帝と世襲制を採用せず、優秀な後継者を養子とし帝位を存続させていたが、マルクス・アウレリウス帝のバカ息子コモドゥスが帝位についたため、五賢帝時代は終わりを告げるのだが、このあたりは『グラディエーター』に詳しい(笑)

主人公ルシウスを演じた阿部寛は、物語前半はほとんどハダカで大熱演‥そのオーバーなリアクションや不自然なまでの局部の隠し方が笑えた。
ヒロインの上戸彩は久しぶりの本格的な映画出演だが、やはりいい女優さんなのでもっともっと映画に出演してほしいと思う。


出演:阿部寛、上戸彩、北村一輝、竹内力、宍戸開、笹野高史、市村正親、キムラ緑子、勝矢、外波山文明、飯沼慧、岩手太郎、木下貴夫、神戸浩、内田春菊、松尾諭、森下能幸、蛭子能収 他

原作:ヤマザキマリ
脚本:武藤将吾『クローズZERO』
監督:武内英樹『のだめカンタービレ』
2012/4/28公開

2012年4月29日 (日)

『裏切りのサーカス』

『裏切りのサーカス』
『裏切りのサーカス』
『裏切りのサーカス』
『裏切りのサーカス』…TINKER TAILOR SOLDIER SPY(128分 R15 シネスコ ☆☆☆★★★3.75/5)


あーあ‥また宣伝が暴走しちゃったね。
正直言ってキャッチコピーで詠われているような内容の作品では決してない。
キャッチコピーを信じて観てしまうと、かなり高い確率でがっかりしてしまうので注意しよう。
とにかく宣伝で映画の内容を捏造するのは勘弁してほしいものだ‥誇大宣伝は映画に関してはセーフだけど。

映画は面白いよ。
ジョン・ル・カレの原作を映画化したスパイもので、リアリズムに徹した緊張感のあるストーリーが楽しめる。
美術や撮影も素晴らしく、オープニングのブダペストの一幕からもう魅了された。
撮影に関しては、おそらくは「銀残し」のような現像処理でも施しているのか、少し彩度を落とした渋い色合いの映像が印象的だった。
決して派手な見せ場を売りにした作品ではないが、キャストは豪華だし、最後まで緊張を持続させており飽きさせない。

東西冷戦下の1980年代‥英国諜報部《サーカス》の奥深く潜り込んだソ連の2重スパイ「もぐら」を突き止めるため、引退した老スパイ、ジョージ・スマイリーは再び現場に呼び戻される。

物語はその「もぐら」を裏から操るソ連のスパイ・カーラとスマイリーとの過去の因縁を絡めつつ進行するのだが、ここで注意しておきたいのは、本作は決してトリッキーな物語の仕掛けを楽しむ類の作品ではないと言うこと‥
例の「もぐら」の正体も、キャストの面々を眺めていれば、それが誰かはうすうすは察しがつくレベルなのだから。
したがって本作はその結末の意外性に驚くタイプの作品ではなく、スマイリーが地道な調査を行うことによって、じわじわと「もぐら」の正体を炙り出していく‥その緊張に満ちた諜報戦をこそ楽しむべき作品なのだ。

「真実が見える‥」たって、本作みたいな混沌とした諜報戦を描いた作品で、真実が見えすぎたらかえって面白くないでしょう。多少あいまいなくらいがちょうどいい。
主人公のスマイリーが実は「もぐら」だった‥なんていう意外な結末が用意されていれば話は別だが。

ところで、ジョージの妻であるアンという女性がけっこう重要なキャラクターとして設定されているのだが、その肝心のアンがいっさい画面に登場しないのが面白かった。
アンは登場人物のセリフの中や、存在していたという痕跡(ジョージに贈ったライターだとか‥)、あるいはチラッと映る後ろ姿くらいしかその存在は提示されないが、それでいて強烈な存在感を放っているのである。
その昔、ヒッチコック監督が『レベッカ』という作品で同じような手法を用いたが、それを思い出してしまった。


出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、トム・ハーディ、トビー・ジョーンズ、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ、キーラン・ハインズ、キャシー・バーク、スティーヴン・グレアム、ジョン・ハート、サイモン・マクバーニー、スヴェトラーナ・コドチェ、ジョン・ル・カレ 他

原作:ジョン・ル・カレ
脚本:ブリジット・オコーナー、ピーター・ストローハン
監督:トーマス・アルフレッドソン『ぼくのエリ 200歳の少女』
2012/4/21公開

『僕等がいた(後編)』

『僕等がいた(後編)』
『僕等がいた(後編)』
『僕等がいた(後編)』
『僕等がいた(後編)』(121分 ☆☆☆☆4.00/5)


北海道釧路市‥高校2年生の矢野元春(生田斗真)と高橋七美(吉高由里子)は、いくつかの試練を乗り越え愛を確認し合うが、家庭の事情で矢野は東京へ‥
最初は順調だった遠距離恋愛も、いつしか矢野からの連絡は途絶え、彼は行方不明になってしまう‥矢野の身に何が起こってしまったのか?
矢野の身を案じながらも日々は過ぎ、高橋は大学を卒業、社会人となるが‥

小畑友紀原作の純愛コミックの映画化‥本作はその後編である。
前作の6年後より物語はスタート、新キャラクターとして、矢野の東京時代の同級生にして、偶然にも高橋の職場の同僚となる千見寺亜希子(比嘉愛未)が登場する。

前編では主要キャストの高校制服姿にややムリを感じたが、本作はその6年後を描いているため、登場人物も俳優さんの実年齢に近づき鼻白むことなく物語に没頭できるのがポイント。
しかし、吉高由里子の制服姿にふと萌えてしまい、前編を5回も観てしまったのは何を隠そう私なのだが、またまた本作でも比嘉愛未のムリヤリな制服姿に萌えてしまったことを告白しておく‥(笑)
かくもオジサンは女子高生好き‥なのか単なる制服好きなのかは定かではないが‥(^_^;)

さて本作では物語の前半で、その矢野の身に何が起きたのかが回想形式で語られていくが、これがなかなかに壮絶‥
十代の頃から、あんな精神的ダメージの波状攻撃を喰らい続けていたら、心が荒んでいくのも分かるような気がする。
高橋を思いながらも彼女のもとから去っていく彼の心情は切ない。

映画は矢野と高橋、それに竹内匡文(高岡蒼甫)と山本有里(本仮屋ユイカ)を加えた恋模様を描いていくが、さほど前編を観た際の女子2人組の会話のようなドロドロさは感じなかった。
矢野も高橋も紆余曲折はあれども、お互いを思う感情にブレはないし、三木孝浩の演出も、ただただ情緒を刺激してくる前編とは異なり、抑制の効いたクールなタッチに終始していたからかも知れない。

さて前編では暫定とした評価も物語を見届けた時点ではかくのごとし、コミックの映画化であるという色眼鏡を外して観ても、恋愛映画としも出色の仕上がりの作品であった。

ところで、前編ではワンシーンのみ出演だった柄本祐だが、さすがに後編では出番はないだろうと思っていたら、実に意外な場面で登場した。その強引さには思わず笑みが‥(笑)


出演:生田斗真、吉高由里子、高岡蒼甫、本仮屋ユイカ、小松彩夏、柄本祐、比嘉愛未、須藤理彩、麻生祐未 他

原作:小畑友紀
脚本:吉田智子
監督:三木孝浩『ソラニン』
2012/4/21公開

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